痛みの基礎知識とがんの痛み

(1)痛み(疼痛)とは

 体の組織の損傷に伴う不快な感覚的、精神的な体験であり、明かな組織損傷を伴わない場合もある。癌患者の約70%が痛みを経験するという。

(2)痛みの増悪因子と軽減因子

 痛みは通常、末梢神経-脊髄-視床下部-大脳と伝達される。最終的には頭で認知されているから、その時の様々な環境、精神心理、肉体の状況により、同じ様な強さの刺激が神経を通って伝えられも、違った強さの痛みとして感じる。          

痛みの感じやすさ(疼痛閾値)                     

1.閾値を下げる(痛みが強くなる)因子                

 不眠、疲労、不安、恐怖、怒り、悲しみ、うつ状態、社会的・個人的孤独感、いらだち

2.閾値を上げる(痛みが和らぐ)因子                 

 人とのふれあい・会話、気分の高揚、熟眠、気晴らし、楽しいことへの集中、やすらぎ

(3)トータルペイン(全人的痛み)という捉え方

  身体的苦痛 精神的苦痛 社会的苦痛 実存的(霊的)苦痛        

身体的苦痛への対処だけでは解決しない部分がたくさんある

(4)三種類の痛み (INDEX 三種類の痛みもどうぞ!)

1.侵害受容性疼痛                            

体の組織に害を及ぼすような強い刺激(侵害刺激)が、加えられると、体の組織に分布したこうした刺激(圧力、化学物質、熱など)に反応する神経繊維が興奮して電気信号を脊髄、脳へ向けて伝達する。

2.神経因性疼痛                             

神経繊維、脊髄など神経組織そのものが傷害されたときにおきる痛み。しびれが切れた時に似た、何とも言いようのない電気の走るようなしびれ痛みや様々な表現がなされる。痛みの感じる場所は、傷害されている場所から離れたところになることが多い。

3.心因性疼痛                              

神経から伝達される電気信号とは無関係な痛みとなる。神経の走行・分布とは一致しない痛み。

(5)痛みの例

1.侵害刺激による痛み

捻挫した関節、やけど、切り傷が腫れて熱をもって痛む:

 傷害された組織で炎症が起こり、痛みをおこす化学物質(発痛物質)が出て、侵害刺激となる、また腫れが神経を機械的に刺激する。

虫歯であごまで腫れて痛む:                       

感染に伴う炎症反応、腫れによる物理的刺激 

おなかの痛み:

 強い消化管の収縮や拡張:機械的刺激、虚血に伴う発痛物質など

 腹膜への炎症波及:感染(虫垂炎)などで腹膜炎をおこしたとき

 肝臓癌で右の脇腹からおなかが痛い:肝臓癌の増大での肝被膜の伸展刺激

頭痛:

 偏頭痛でずきんずきんと痛む:血管の拡張(収縮後の?)による痛み

 夕方になると頭がしめつけられるように痛い:首から頭にかけての筋肉の収縮による痛み(筋緊張性頭痛)

 髄膜炎での痛み:髄膜への炎症

 脳腫瘍での痛み:頭蓋内圧亢進での髄膜の伸展刺激など

骨折、癌の骨転移での痛み:

 炎症と骨膜への刺激

2.神経因性疼痛

帯状疱疹(ヘルペス)の後がいつまでも痛む

三叉神経痛                             

脊髄損傷後の痛み

腰椎椎間板ヘルニアでの下肢の痛み

肺尖部の肺癌が腕神経叢へ浸潤したときの、上肢や肩の痛み

骨盤内の腫瘍が坐骨神経叢へ浸潤したときの下肢の痛み

(6)ゲートコントロール理論

 末梢の神経から脊髄に入ってくる痛み刺激は、脊髄にあるゲートの開き具合で調節される。このゲートは脳から命令や、末梢からの他の知覚神経からの刺激でせばめられる。さすってもらうと楽になるのもこの理論である程度説明される。

(7)慢性疼痛と急性疼痛 ( INDEX 急性の痛みと慢性の痛みもどうぞ!)

 急性疼痛は何らかの侵害刺激によることが多く、原因を確かめて対処する事が必要である。原因により対処方法はことなる。原因が除去可能な場合は、それを行うと同時に、痛みへの対処も行う。明らかに痛みの原因は治まっていると思われるのに痛みだけが持続することがある。数ヶ月(6ヶ月)以上持続する痛みを慢性疼痛と呼ぶ。慢性疼痛はしばしばその人の性格にまで影響を与えることがあり、注意が必要である(慢性疼痛症候群)。慢性疼痛の一部には、急性疼痛が持続することで、痛みの伝達システムが過敏になって起こってくるものがあると考えられている。

(8)痛み止め(鎮痛薬)の種類

1.非ステロイド性消炎鎮痛解熱薬(NSAID) いわゆる痛み止め。炎症部位に作用して、発痛に関係するプロスタグランディンをつくる酵素(シクロオキシゲナーゼ)を押さえて作用する。同時に解熱作用を持つものが多い。経口薬(ボルタレン、ロキソニン、アスピリンなど)、坐薬、筋肉注射薬、湿布、クリームなど

2.鎮痙薬 平滑筋(消化管の筋肉)の収縮を押さえる薬。一般に消化管は副交感神経の刺激で動くので、副交感神経作用を抑える薬が使われる。代表はブスコパン。

3.血管収縮薬  偏頭痛ではカフェルゴットなどの血管収縮薬が使われる

4.副腎皮質ステロイド  自己免疫疾患(リウマチなど)の炎症を押さえたり、脳圧亢進での浮腫や神経の周りの浮腫を押さえたりする。癌性疼痛でも有用。プレドニン、デカドロン、リンデロンなど。

5.抗けいれん薬  神経因性疼痛で使われる。テグレトール、デパケン、リボトリールなど。

6.局所麻酔薬

 けがを縫う時や、歯の治療などで、注射(麻酔)する薬。濃さと量によるが1-3時間くらい神経の信号伝達を遮断(ブロック)する。その神経の領域は筋肉がゆるみ、交感神経がブロックされて血液の流れが増加する。いたい場所に注射する方法(局所注射、トリガーポイント注射)、太い神経に集中して注射する方法(末梢神経ブロック)、脊髄を包んでいる膜のすぐ外へ入れ、神経の根元(神経根)や、広い範囲の交感神経に効かせる方法(硬膜外ブロック)などがある。キシロカイン、マーカインなど。

7.全身麻酔薬   

神経伝達システムの過敏さを押さえる可能性のある薬、ケタラールが注目されているが注射薬しかない。

8.モルヒネとその類似薬(オピオイド)

 中枢神経(脊髄〜脳)には、体のなかで自然につくられるモルヒネに似た物質(内因性オピオイド)が作用する場所(オピオイドレセプター)がたくさんあることが知られている。モルヒネに似せて合成した薬も色々あるが、薬によってはモルヒネの作用をうち消したりするものもあるので、モルヒネとの併用はしてはいけない。

経口薬 塩酸モルヒネ末(シロップに溶かして)、MSコンチン(硫酸モルヒネ徐放剤)坐薬 アンペック坐薬(塩酸モルヒネ) レペタン坐薬 注射薬 アンペック(塩酸モルヒネ) フェンタネスト レペタン ペンタジン・ソセゴン

9.抗不整脈薬

 神経因性疼痛で使われる。リドカイン注射薬 経口薬としてメキシチール、タンボコールなど

10.抗不安薬・睡眠薬

11.抗うつ薬

 神経因性疼痛で使われる。疼痛閾値を上げる作用(痛みを感じにくくする作用)がある。即効性はなく副作用(のどが乾く、排尿困難)をみながら少しずつ増量する。経口では三環系のトリプタノール、四環系のルジオミール、注射ではアナフラニールなど。

まとめ---鎮痛薬の分類

1.非ステロイド性消炎鎮痛解熱薬(NSAID) 2.モルヒネとその類似薬 3.ステロイド 4.鎮痛補助薬   抗鬱薬 抗痙攣薬 抗不整脈薬 抗不安薬 睡眠薬  5.麻酔薬   局所麻酔薬 全身麻酔薬(ケタラール)  6.その他   鎮痙薬 血管収縮薬

(9)在宅での癌性疼痛管理の基本

1.患者さんや家族の希望を最優先しながらおこなう。

2.トータルペインという視点をもつ。

3.痛み以外の症状管理をきっちりおこなう。

4.痛みの評価と診断を確実に行う。(癌患者さんの痛みでも原因がとれる痛みもある。またいくつかの種類の痛みが重なっていることもある。)

5.モルヒネ使用は予後(後どれくらいの余命か)で決めるものではなく、痛みの強さと、原因によって決める。

6.モルヒネ製剤はモルヒネシロップ、MSコンチン錠、アンペック坐薬、アンペック注射薬のいずれでも提供できるようにし、各製剤の長所、欠点を知っておく

7.モルヒネ使用時は副作用対策(便秘は必発、吐き気も多い、 眠気、かゆみ、幻覚がまれに)を最初からおこなう

8.NSAID、モルヒネ、ステロイド、鎮痛補助薬を組み合わせて使う。モルヒネの効きにくい痛み(神経因性疼痛)、NSAIDやステロイドとの併用が有効な痛み(骨転移の痛み)など、痛みの性質によって、使い分ける。

9.急激な痛みは緊急事態として対処する。

10.それまでとは違う初めての痛みは、必ず診察して対処する。

11.基本は経口薬を定期的に使用すること。(痛む前に使う)

12.患者さんや、家族の人が自分で調節できる方法を優先する。

13.持続皮下注射法を実施できるようにしておく。

14.特殊な治療法についての知識を持つ

 放射線照射 透視下神経ブロック 持続硬膜外ブロック など